アイアムアヒーロー(ネタバレアリ)

 昨今色々と批判の多い漫画原作の実写映画化。しかし本作は海外の映画祭でも賞をとるなど前評判も上々。
期待して観に行ったところ期待以上の出来に思わずエンドシーンを観ながら涙を流してしまいました。
この映画自体が、混迷する邦画エンタメ映画界に現れたヒーローでしたよ!

 監督は「図書館戦争」「GANTZ」の佐藤信介。僕は「GANTZ」は公開当時はどうせダメだろうとスルー
したのですが、後にWOWOWで観た時にアクションシーン等の映像のクオリテイが予想以上に高くて
思わず録画保存してました。主演は大泉洋。正直、原作の鈴木英雄と比べると年齢もちょっと上だし、
大泉洋の個性が勝ちすぎるんじゃないかと不安でしたが、お馴染みのチリチリ頭にストレートパーマを
あてるなど、かなり英雄に寄せていて驚きました。

 「ゾンビ映画」といえば、ロメロの「ゾンビ」以降、世界中で数えきれないほどのタイトルが作られている
人気ジャンルです。比較的低予算で作れるのもその魅力のひとつでしょうが、本作はそのメリットを捨てて、
かなり大規模なスケールのゾンビパニックシーンを描いています。CGもおざなりなものではなかったし、
韓国でのロケ撮影を敢行したのも非常にプラスにだったと思います。少なくとも映像的な安っぽさにガッカリ
させられることはなかったし、こじんまりとした作りには逃げねぇぞという心意気に胸踊りました。

 ゾンビ(本作ではZQN=ゾキュンと呼称)の描写も個性的で素晴らしかった。特に序盤での英雄の彼女
てっこや、漫画アシスタント先の塚地やマキタスポーツのZQN描写での、デッサンが狂ったような崩れた
顔の気持ち悪さは、日本…というか日本の漫画の独特な味を見事に再現してるなぁと思いました。海外の
ゾンビだとこういう感じにはしないと思うので、比較的見慣れてる我々よりも海外の人の方がフレッシュに
見れたんじゃないですかねぇ。

 冒頭での日常が崩れ、パニック状態となるというゾンビ映画お馴染みの流れ。そこでも本作は勝負して
ました。長回しを駆使したり、韓国ロケの利点を活かしたタクシー暴走シーンなど、迫力とスピード感を
重視した圧巻の仕上がり。まるで「ワールド・ウォーZ」(ブラピ主演でゾンビ映画としては破格の予算で
作られた大作)を意識してるかのようでした。
 そういえば有村架純演じる比呂美とアウトレットモールに到着するシーンで唐突にまったりした
ブルースっぽい歌が流れてましたが、あれって「ウォーキングデッド」を茶化してるんですかねw?

 モールでのクライマックスシーンも素晴らしかった。本来、吉沢悠演じるラスボス伊浦を英雄が
倒したところで充分。別にそこで終わっても「息切れしたな」なんて思わずに満足して映画館を出た
と思うんですが、そこからのゾンビの大群とのいつ終わるともしれない壮絶バトル! ちょっと
「ザ・ホード 死霊の大群」を思い出しました。そしてそれでももう本当ごちそうさま状態なのに、
全滅させてホッと一息ついた後にちゃんとラストモンスター“高飛びZQN”との対決を用意してる
という心憎さ! エンタメ映画かくあるべし! という感じで本当に嬉しくなりました。

という感じで「ゾンビ映画」「エンタメ映画」としても、凄く良く作られていた本作ですが、僕が一番
この映画で好きになったのは鈴木英雄というキャラクターの成長譚という側面でした。

 映画序盤で、35歳の漫画家アシスタント英雄のどん詰まりの生活がじっくりと描かれています。
当然、観てる側からするとこの段階で「あぁ、この現実社会では冴えない主人公が、ゾンビパニックと
化した世界でヒーローとなっていく映画なんだな」というボンクラの夢的展開を当然予測するんですが、
そう容易くはいかなかった。英雄は猟銃を持ちながら終盤まで一発も撃つことも出来ず、伊浦たちにも
出し抜かれいいことなし。そこでこんなことを長澤まさみ演じる藪に言ってました。
「世界が引っくり返っても、結局何も変わらない。俺はダメなヤツなんです」
 クライマックスに突入する手前という位置に配置されたこのセリフが本作で最もキーとなるセリフなん
じゃないかなと観てる時に思いました。思えばこれ以前の英雄は、腰が低くて、彼女にもすぐに謝ったり
してましたが、それは摩擦を避けるためにやってただけで、本当に自分の弱さを認めてたわけではない
と思うんです(うすうすは気づきながらも逃げていた)。冒頭のアシスタントシーンでも都合のいい妄想し
たり、編集者や比呂美に名前を言う時も「名前負けしてるんだけどねー」なんて言い訳を入れつつも
「英雄(えいゆう)と書いてひでおです」なんて自己紹介をしてるのを見るとプライドは人一倍もってたはず。
 それが先程のセリフでは本当に自分の弱さを認めて落ちるところまで落ちた。だからこそ、この後の
ロッカーシーンでは、今度は都合の悪い妄想ばかりしつつもそれを振り払って飛び出していくという姿が
熱く盛り上がるのです(その後、飛び出したらZQNがいないというユーモアで落とすバランスも最高)。

 そして、ラストシーン。藪に名前を聞かれた英雄が今度は「鈴木英雄…ただのひでおです」と答える姿
を見て、すでに英雄(ヒーロー)となった彼は自分で「ヒーロー」なんて言わないんだなと、分かった時に
グッと泣けてしまいました。
 
というわけで、(ハリウッド等に比べて)低予算の邦画であることや、(ある種ヘタウマな感じでも許される)
ジャンル映画ということに甘えずに、エンターテイメント映画として真っ当な姿勢で作られた本作を観て
本当に嬉しかったです。贔屓目もあるかもしれませんが、現状僕の今年ナンバーワンです!

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# by koshibaken | 2016-04-28 21:16 | 映画

KING OF PRISM by PrettyRhythm(ネタバレアリ)

 ある日、ツイッターのタイムラインを眺めているとRTで回ってきた「キンプリ」という文字…。
 僕の映画仲間たち(当然、男)がこぞってRTしたり、自身で観てきた感想なんかも呟き始めたので
さすがに無視出来なくなって調べてみたところ、女児向けTVアニメ「プリティーリズム」のスピンオフ
映画であることが分かりました。「プリティーリズム」の主人公は女の子たちでしたが、「キンプリ」の
主要キャラは男性アイドル(厳密にいえばアイドルとは違うようなのですが…)になっていました。
 となると当然、女性の方々に向けて作られた作品なので、僕の視野には入ってこないはずなのですが、
先程述べたように、タイムライン上でやたらと盛り上がっているのを目にし、観た人の観賞ルポ漫画を
読んだりすると、とにかく「どうかしてる」という事だけは分かったので、単身突入してきました。
※今回は映画の感想というより体験記です。

 新宿バルト9夜の回はやはり女性客が9割。そして満席!
映画が始まって早々にライブシーン(プリズムショーという)が始まり、いきなり「ブフォッ!」
吹き出してしまう。三人組ユニットOver The Rainbow(通称オバレ)がスケートでダンスしながら
歌い踊るのだが、そのまま空に飛び上がったり、裸になったり、女の子と自転車に二人乗りしたり、
たまたまライブを見に来ていたこの映画の主人公・一条シンも裸になって抱きつかれたりする…。
うん、こうして書いてても何が何やらである。
 気になって両隣の女性客の様子をうかがうと…彼女たちも「ブフォッ!」と吹き出していました。

 その後も歌のシーンが来るたびに、劇場のあちらこちらから「ブフォッ!」という声と、座席に座りながら
プルプルと小刻みにゆれる人影が目に入ってきました。
 どうやらみなさん、ゲラゲラ笑うことだけはこらえてるようなので、僕も大笑いするのは我慢
していましたが、結果、腹筋が痛くなり、じんわりと手汗もかいていました。そして…。

いーじーどぅだんす!

いーじーどぅだんす!

…これはやばい。気を抜くとふっとばされる。僕は歯を食いしばり、前のめりにスクリーンと
対峙するようになりました。「キンプリ」は映画鑑賞などという生易しいものではなかった。
これはもはや映画との戦いでした。

 しかし、「キンプリ」はバカやってるだけではありませんでした。オバレの活動休止、そしてその後を
新人のシンが継承するクライマックスは素直にグッときました。おそらくテレビシリーズの頃からオバレ
を追っていたファンならもっと感動していたことでしょう。

そしてエンディング曲「ドラマチックLOVE」(これ名曲!)が流れ、スクリーンに「FIN」の文字が
出た瞬間……劇場大爆笑! そして拍手の嵐!

 いや、映画の最中のギャグシーンとかで笑い声が起きるのはわかりますけど、映画が終わった瞬間に
爆笑が巻き起こるというのは初めての経験でした。そして拍手…これは映画に対してということもあるで
しょうが、同じ劇場で一緒にこの体験を共有し(そして生還した)皆をたたえ合う拍手だと感じました。

本作は上映時間が60分という中編で、これからってところで終わっていたのですが、予算がつけば
後編も作られるそうです。その時はすぐに観に行きたいと思っています。というか…すでにもう一回
観に行きたくなっています。

 というわけで、映画が終わって退場するときに僕の耳に入ってきた女性たちの言葉を列挙して
終わりにしたいと思います。
『ヤバい…何がヤバいのかわからないけどヤバい』
『これは2回目からが本番だわ』
『この前は終わった時に「ブラボー!」って叫んでる人いたよ』
『座ってただけなのに走った後みたいに鼓動が早い』
『キンプリはシャブ』

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# by koshibaken | 2016-02-25 04:40 | 映画

オデッセイ(ネタバレアリ)

『誰だと思ってんだ、植物学者さんだぞ』

 不運な事故により火星にたった一人残された主人公。絶体絶命の状況にありながらも、火星に向けて
上のようなセリフを不適に言い放った瞬間、僕はこの映画にサムズアップしました。

 原作は無名の新人作家アンディ・ウィアーがサイトに公開したウェブ小説。それが評判を呼び、
キンドルにて販売したところベストセラーとなり、すぐに映画化のオファーが来たという夢のような話。
 脚本は「キャビン」が最高だったドリュー・ゴダード。もともとは監督も彼がやる予定で、主演のマット・
ディモンもその段階でキャスティングされており、監督とも何度か打ち合わせしていたそうです。
しかし別作品のスケジュールの都合でドリュー監督が降板。その後を継いだのが巨匠リドリー・スコット!
「プロメテウス」で若返ったのか、このところ大作映画を精力的に撮られていて嬉しい限り。

 本作の陽性でポップなノリは基本的にはドリュー・ゴダードが原作どおりに脚色したものとなっています。 
主人公ワトニーのユーモアやポジティブさは原作どおりですし、他にも船長のディスコソング、デビッド・
ボウイ(原作では「スターマン」ではなく「ライフ・オン・マーズ」)、中国との協力、「アイアンマンだ!」なども
原作に出てきます。大きく変わった(端折られた)のは後半の展開。原作では居住ハブを捨てローバー車で
脱出カプセルの場所に向かう道中にもいろいろトラブルが起こるのですが、映画では尺の問題や、クライ
マックスを一気に盛り上げようという狙いからか、かなりざっくり省略されていました。

 当初、ドリュー・ゴダードはマット・デイモンに本作のテーマを「科学へのラブレター」だと説明していた
そうなんですが、まさにこの作品の素晴らしさを端的にあらわしている言葉だと思います。
 これまでハリウッドの娯楽大作映画において科学者という存在は悪役だったり、ネガティブな意見を
いう堅物な役回りが多かったと思います(それに対して無学だがポジティブな主人公が無理を通す)。
しかし本作では、主人公だけではなく、地球のNASAの科学者や、宇宙船「ヘルメス」のクルーなど
頭の良い人たちがちゃんと頭を使って状況を打開する様が描かれてるのがとても気持ちいい!
 科学者をこのようにポジティブ描いた映画として、昨今まず思い浮かぶのは「アイアンマン」だと思います
が、クライマックスシーンで原作よりもアイアンマンネタを膨らませてあったのは、リスペクトを捧げたんじゃ
ないのかなと想像します。

 全体にちりばめられたユーモアや、ディスコソング、アイアンマンといったポップカルチャーへの目配せが
原作やドリュー・ゴダードの味だとすると、リドリー・スコットが本作にもたらしたものは何か? それは
「リアルを超えたリアリティ」だと思います。彼は「エイリアン」や「ブレードランナー」といったSFの未来世界、
逆に「グラディエイター」といった大昔の世界でも、ファンタジーとしてではなく、リアルに見せることに徹底的に
こだわるビジュアリストです。
 その結果、本作はまったくのフィクションでありながら、まるでドキュメンタリーと見間違うかのような強度
を持った映像作品に仕上がっていました。映画を観てる間、「火星ってもうNASAの飛行士が何人か降り立
ってたっけ?」って自然に思ったりしましたからねw
 映画の年間ランキングをつける時に僕はよく「ドキュメンタリー映画は別枠にしたい」と思っているんですが、
それはどうしてもフィクションよりドキュメンタリーの方が観た後のインパクトや強度が強くて、ズルイよな~と
思ってしまうからです。そんな中、本作はフィクション作家のドキュメンタリーへの逆襲にも思えて痛快でした。

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# by koshibaken | 2016-02-19 12:08 | 映画

イット・フォローズ(ネタバレアリ)

 昨年、全米でたった4館で封切られたものの、口コミで評判が広がり、1655館に拡大公開。2015年の
ベストホラー映画とまで言われ、クエンティン・タランティーノも絶賛と話題の本作を観賞して参りました。

 いや、これは評判通りの傑作でした! ジョン・カーペンター「ハロウィン」などの80年代ホラー映画や、
「リング」「呪怨」といったJホラーなどの影響を受けつつも、非常に新鮮なやり方で、オリジナリティー溢れる
世界観を生み出していることに感動。そして、ホラー映画でありながら青春映画としての要素も兼ね備えて
いることに惚れ惚れいたしました。

 監督/脚本は2010年にデビュー作「アメリカン・スリープオーバー」(未見なのですが、こちらは純然たる
青春映画らしいです)を一本撮ったのみの新鋭・デヴィッド・ロバート・ミッチェル。
 主役ヒロインのジェイ役には、アダム・ウインガード監督作「ザ・ゲスト」のマイカ・モンロー。僕は「ザ・ゲスト」
観てるんですが、作品自体があまりピンとこなかったので(同監督の「サプライズ」は大好き)、彼女の事も
あまり印象に残ってないのですが、本作では魅力爆発していました。最新作にクロエ・グレース・モレッツと
共演のSF大作「The 5th Wave」が控えていたり、「インデペンデンス・デイ」続編のヒロインにも抜擢された
そうなので、これから見る機会も増えそうで楽しみな女優さんです。

 あらすじ:女子大生ジェイは最近付き合い始めたボーイフレンドのヒューと初セックスしたが、その直後、
ヒューに睡眠薬で眠らされてしまう。気がつくと彼女は廃墟で車いすに縛られていた。ヒューは彼女に説明
する。「俺に取り憑いてた幽霊をさっき君に移した。『それ』は君の知人や、赤の他人に姿を変えながら歩い
てくる。ゆっくりだが確実に。それに捕まると死んでしまう。助かるためにはセックスして他人にそれを移す
しかない。ただし移された相手が死ぬと自分に戻ってくる」と。
 その日から、感染したものにしか見えない「それ」がジェイの周りに現れるようになる、ジェイは妹のケリー
や友人たちと協力し、「それ」から逃れようとするが…。

 まず、お化けにとりつかれる原因がセックスで、逃れるためにはまた別の人にセックスして移すしかない
という設定からして凄いんですけど、そのお化け=『それ』の描写がとにかく新鮮でした。なにせ、基本的に
ただの人! ゾンビみたいなメイクも無し! 低予算を逆手に取ったまさに「その手があったか!」と手を
叩きたくなる手法でした。
 見た目普通の人間が画面の奥の方からヒロインに向かってゆっくりと歩いてくるだけなので、それが
『それ』なのか、ただの通行人なのか、よくわからないんですよね。なので、手前でヒロインが喋ってる
シーンでも、われわれ観客側としは画面の奥の方まで注意して見ざるをえない。遠くの方にピンぼけで
写ってる人物が近づいてくるだけでもヒヤヒヤしてしまうわけです。

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ゆっくり歩いてくるだけでこんなに威圧感覚えたのはBLACKさん以来!

 そして、この全編に漂う緊張感や違和感をさらに強めていたのが背景描写。本作は自動車産業が
衰退し、荒廃しつつある現在のデトロイトで撮影されているんですが、そのゴーストタウンっぷりに
加えて、家のテレビが液晶ではなくブラウン管で白黒の映画ばっかり流していたり、いまどき登場
人物の誰もiPhoneを持っておらず、かと思えば貝型のブックリーダー(昔の映画に出てくる未来
ガジェット感)を使ってる子がいたり、出てくる車が70~80年代ぽかったりと、「いったいこれは
いつの時代!?」と混乱してしまう描写になっています。
 監督のインタビューによると、「子供の頃に見た怖い夢の感じを出したかった」ということですが、
確かに観ている間、夢の世界にいるような不思議な感じに支配されていました(そして、そんな
変な世界だからこそ、「それ」と普通の人間との区別がますます曖昧になる)。
 
 風景を切り取るカメラワークも独特でした。キューブリック的なシンメトリーな構図でカメラを固定
してると思いきや、カメラをゆっくりと360度回してあたりを見回すという印象的なシーンが二回ほど
出てきますが、これはオープンワールドのアクションゲームっぽく感じました。
 本作は音楽も印象的で、曲自体はシンセばりばりで80年代のホラー映画っぽいのですが、その
頃のホラー映画でもこんなにずっと音楽鳴らしてはなかったぞと驚くほど、全編音楽が流れっぱなし
でかなり自己主張が強い感じでした(ダサいとすら感じるほどに)。ただしこれも、ゲーム的なセンスと
考えれば納得のいく話です(ほら、ロールプレイングゲームって街歩いてる時とかもずっとBGM流れて
たりするじゃないですか)。ちなみに本作の音楽を担当したディザスターピースは、長年ゲームミュージック
を作曲していた人で、映画音楽は今回が初めてだそうです。
 
 というわけで、80年代ホラーの様式を受け継ぎつつも、ゲーム世代ならではの感覚もミックスされた
オリジナリティー溢れる世界観に僕はすっかりやられてしまいました。

 その上で、ストーリーというか、青春映画としての側面も実に素晴らしかったです。

 映画の中盤、ジェイに「それ」を移して助かったはずのヒューに会いに行くと、彼は目の下にクマを作り、
普通の通行人を「それ」だと疑い、精神を病んでるようでした。つまり、ただ「それ」を移すだけのゆきずりの
セックスは正解ではなかった。
 そして映画終盤、ジェイは、彼女のことをずっと好きだった幼なじみのポールと結ばれます。しかしポール
は「それ」をまた他の女性に移そうとはせず、ジェイもそれを良しとしたのか、後ろに近づいてくる「それ」を
引き連れながら2人で手をとり、歩いて行くカットで映画は終わりました。
 果たしてこの先2人は、被害を広めず食い止めるために心中するのか、「それ」から逃げながら2人で
なんとか生きていこうとするのか…僕は後者だと思いました。

 僕はこの映画のデトロイトの寂れた街の撮り方を観てトーマス・アルフレッドソン監督のヴァンパイア
映画「ぼくのエリ 200歳の少女」を思い出したのですが、プールでのスペクタルシーンや、2人が手を
取り前に進もうとするラストシーンにも共通点を感じました。

 本作の公開後、アメリカではセックスをすると移るという「それ」は性病のメタファーなんじゃないかと
いう議論が巻き起こり(まぁ、気持ちは分かる)、その説は監督が否定したそうです。

 ここからは僕の解釈ですが、「それ」はゆっくりと近づいてきて、決して逃れる事が出来ないという事から
そのものズバリ「死」だと思いました。それから逃れるためにセックスをしなければならないというのは、
子供を作ることによって「自分の命を受け継がせる」ことが「死」を回避するということになるんじゃないかと。
 そして、セックスした相手が死ぬと「それ」が自分に戻ってくるというルールが意味する事は、「子供を
作ったらちゃんと育てなさい!」ということ。
 そう、本作は『正しいセックスと子育て指南映画』だったのです。もし子供がゆきずりのセックスとかしようと
したら、ジェイの父親の姿をした霊がプールでしたように家電を投げつけて叱ろう!(ええー)

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# by koshibaken | 2016-01-29 08:08 | 映画

クリムゾン・ピーク(ネタバレアリ)

 “俺達のトトロ”“世界一のオタキング”こと、ギルレモ・デル・トロ監督の最新作。前作『パシフィック・リム』は
監督の怪獣映画への愛が炸裂した作品でしたが、本作はゴシック・ロマンスへのオマージュ作とのこと。
主演は『アリス・イン・ワンダーランド』『イノセント・ガーデン』のミア・ワシコウスカ。共演にはMCUのロキ役で
人気のトム・ヒドルストン。まるで不憫な弟役を当て込んだかのようなキャステング(今回は兄ではなく姉
ですが)。そしてその姉役に『ゼロ・ダーク・サーティー』等のジェシカ・チャスティン。

 さて、デル・トロ監督の新作はゴシック・ロマンス。幽霊も出てくるホラー物ということで、観る前は監督の
フェティッシュなこだわりが細部まで行き届いた美術セットやクリーチャーが見ものだぞと思って楽しみに
していたのですが(もちろん、実際にそれはそれで凄かったのですが)、冒頭から目を奪われたのは
ミア・ワシコウスカでした。
 個人的に『イノセント・ガーデン』で世界一可愛い仏頂面の持ち主だ!と思ったミアですが、本作でも
惜しげもなく仏頂面を全開。それに加えて、今回の衣装がまぁ素晴らしい! 基本的に肩の部分が提灯
みたいに膨らんでる(これなにか専門用語あるんでしょうか…シルエット的にはギャンです)服で、衣装替え
の回数もめちゃくちゃ多く、そのどれもが超絶可愛かった。本作はまずミア・ワシコウスカのアイドル映画
言っても過言ではないと思ってます。
 
 そして、デル・トロ監督でゴシック・ロマンスといえばすでに『デビルズ・バックボーン(2001)』や
ダークファンタジー『パンズ・ラビリンス(2006)』がありますが、本作がそれらと違うのはコメディ色の強さ
だと感じました。いや、はっきりいって本作はデル・トロ作品の中でも最も笑える作品じゃないですかね?
 前半のアメリカでのシーンでは、アメリカ人たちが昔の欧風貴族のような振る舞いをして暮らしてるのも
滑稽ですし、主人公イーディスが「結婚より仕事よ」と息巻いていたのにあっさりとイギリスからやってきた
トーマス&ルシール姉弟の結婚詐欺にころっとハメられてしまうのもトホホ…w
 舞台がイギリスの屋敷アラデール・ホールに移ってからは更にコメディ色が加速。イーディスとトーマスが
仲良くキスを始めてると、姉ルシールがやってきて紅茶を入れるシーンは思わず吹き出してしまい
ました(紅茶セットで乱暴に机を荒らす具合が最高。ジェシカ・チャスティングッジョブ!)。
 他にもトーマスの亡妻が飼っていた犬が、イーディスに懐いてるのかと思いきや、幽霊が出た時には、
イーディスを置いて凄い勢いで逃げ出すのも笑いましたし、トムヒのケツはまぁ言わずもがなでしたね。
 そしてクライマックスでの、ジェシカ・チャスティンの怪演というか、超ハイテンションなモンスターっぷりに
観てる側の口元は緩みっぱなしでした。

 上でイーディスのことを「結婚詐欺にコロッと騙されて…」と茶化しましたが、最終的にはちゃんと
自分の小説を書き、チャーリー・ハナム演じるアランが助けに来た時も、ヒーローに助けられる
ヒロインではなく、むしろ負傷した彼を助けて屋敷から脱出。最後に出てきた本の著者名が旧姓
のままなので、どうやらアランかと再婚してもいないようなので、最初の宣言通り「恋より仕事」を
選べたようですね。これにはホラー映画のお約束であるファイナルガールの法則に則ったものというより、
やはり最近のハリウッド映画によく見られる「強いヒロイン」の流れにあると感じました。

 ちなみにこの終盤の展開で印象に残ったシーンが2つあります。一つは、ルシールに追われた
イーディスが、地下室の井戸の縁にナイフをいったん置いたシーン。我々観客はこの前のシーンで
井戸からルシールに殺された亡妻の幽霊が出てきた事を知っているので、この後ルシールが
近づいてきた時にそのナイフを使って幽霊が復讐を遂げるのかと予想するところですが、結局
イーディスがナイフをまた手に取り直して逃走。
 もう一つはクライマックスでイーディスがルシールに追い詰められたシーン。ここでは幽霊となった
トーマスがルシールの背後に現れるので、てっきり「姉さんもういいんだ…僕と一緒に行こう」とか言って
ルシールを道連れにして、(彼が作った)粘土堀削機にでも飛び込むのかと思いきや、ただ見てるだけ。
 結局はイーディスが「幽霊は実在する…だが、てめえのとどめをさすのはコレだ!」とばかりにスコップで
ルシールをビンタ&頭部をバチコーンと陥没させるという非常にマッチョなケリをつけてくれました。

 最後まで見ると、本作での幽霊はあくまでメッセンジャーであり、物理的な作用は起こせないと描写
されています。そして、これって幽霊がいなくても成立する話ってことなんですよね。実際、映画のラストは
本が閉じるシーンで終わっていて、そこには「著者:イーディス・カッシング」の文字が書かれてます。つまり、
この映画の幽霊のくだりは全て彼女の作り事かもしれないということ。
 で、ここで思い出すのが、映画の冒頭で自作の小説を売り込みにいったイーディスが、出版社の人間に
「幽霊が出てくる話なんてやめて、普通の恋愛物書いてよ」と言われて憤慨してた件。ここでの彼女は
デル・トロと同じような丸眼鏡をかけていて、まるで監督の分身のように見えることもあって
 「ほら、こういうお話って、そのままやったらただの世間知らずが結婚詐欺に会ってあら大変という、現実に
ありそうな夢の無い話じゃないですか。でも、幽霊が出たらこんなに楽しいことになりますよ」と言いたいがために、
あえて全体のお話自体はベタに構成されてるような気さえしてくるんですよね。
 あたかも戦争下での現実の厳しさからの救いを少女がファンタジーに求めた『パンズ・ラビリンス』のように。

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# by koshibaken | 2016-01-15 23:52 | 映画


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