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イット・フォローズ(ネタバレアリ)

 昨年、全米でたった4館で封切られたものの、口コミで評判が広がり、1655館に拡大公開。2015年の
ベストホラー映画とまで言われ、クエンティン・タランティーノも絶賛と話題の本作を観賞して参りました。

 いや、これは評判通りの傑作でした! ジョン・カーペンター「ハロウィン」などの80年代ホラー映画や、
「リング」「呪怨」といったJホラーなどの影響を受けつつも、非常に新鮮なやり方で、オリジナリティー溢れる
世界観を生み出していることに感動。そして、ホラー映画でありながら青春映画としての要素も兼ね備えて
いることに惚れ惚れいたしました。

 監督/脚本は2010年にデビュー作「アメリカン・スリープオーバー」(未見なのですが、こちらは純然たる
青春映画らしいです)を一本撮ったのみの新鋭・デヴィッド・ロバート・ミッチェル。
 主役ヒロインのジェイ役には、アダム・ウインガード監督作「ザ・ゲスト」のマイカ・モンロー。僕は「ザ・ゲスト」
観てるんですが、作品自体があまりピンとこなかったので(同監督の「サプライズ」は大好き)、彼女の事も
あまり印象に残ってないのですが、本作では魅力爆発していました。最新作にクロエ・グレース・モレッツと
共演のSF大作「The 5th Wave」が控えていたり、「インデペンデンス・デイ」続編のヒロインにも抜擢された
そうなので、これから見る機会も増えそうで楽しみな女優さんです。

 あらすじ:女子大生ジェイは最近付き合い始めたボーイフレンドのヒューと初セックスしたが、その直後、
ヒューに睡眠薬で眠らされてしまう。気がつくと彼女は廃墟で車いすに縛られていた。ヒューは彼女に説明
する。「俺に取り憑いてた幽霊をさっき君に移した。『それ』は君の知人や、赤の他人に姿を変えながら歩い
てくる。ゆっくりだが確実に。それに捕まると死んでしまう。助かるためにはセックスして他人にそれを移す
しかない。ただし移された相手が死ぬと自分に戻ってくる」と。
 その日から、感染したものにしか見えない「それ」がジェイの周りに現れるようになる、ジェイは妹のケリー
や友人たちと協力し、「それ」から逃れようとするが…。

 まず、お化けにとりつかれる原因がセックスで、逃れるためにはまた別の人にセックスして移すしかない
という設定からして凄いんですけど、そのお化け=『それ』の描写がとにかく新鮮でした。なにせ、基本的に
ただの人! ゾンビみたいなメイクも無し! 低予算を逆手に取ったまさに「その手があったか!」と手を
叩きたくなる手法でした。
 見た目普通の人間が画面の奥の方からヒロインに向かってゆっくりと歩いてくるだけなので、それが
『それ』なのか、ただの通行人なのか、よくわからないんですよね。なので、手前でヒロインが喋ってる
シーンでも、われわれ観客側としは画面の奥の方まで注意して見ざるをえない。遠くの方にピンぼけで
写ってる人物が近づいてくるだけでもヒヤヒヤしてしまうわけです。

イット・フォローズ(ネタバレアリ)_d0198868_555122.jpg




ゆっくり歩いてくるだけでこんなに威圧感覚えたのはBLACKさん以来!

 そして、この全編に漂う緊張感や違和感をさらに強めていたのが背景描写。本作は自動車産業が
衰退し、荒廃しつつある現在のデトロイトで撮影されているんですが、そのゴーストタウンっぷりに
加えて、家のテレビが液晶ではなくブラウン管で白黒の映画ばっかり流していたり、いまどき登場
人物の誰もiPhoneを持っておらず、かと思えば貝型のブックリーダー(昔の映画に出てくる未来
ガジェット感)を使ってる子がいたり、出てくる車が70~80年代ぽかったりと、「いったいこれは
いつの時代!?」と混乱してしまう描写になっています。
 監督のインタビューによると、「子供の頃に見た怖い夢の感じを出したかった」ということですが、
確かに観ている間、夢の世界にいるような不思議な感じに支配されていました(そして、そんな
変な世界だからこそ、「それ」と普通の人間との区別がますます曖昧になる)。
 
 風景を切り取るカメラワークも独特でした。キューブリック的なシンメトリーな構図でカメラを固定
してると思いきや、カメラをゆっくりと360度回してあたりを見回すという印象的なシーンが二回ほど
出てきますが、これはオープンワールドのアクションゲームっぽく感じました。
 本作は音楽も印象的で、曲自体はシンセばりばりで80年代のホラー映画っぽいのですが、その
頃のホラー映画でもこんなにずっと音楽鳴らしてはなかったぞと驚くほど、全編音楽が流れっぱなし
でかなり自己主張が強い感じでした(ダサいとすら感じるほどに)。ただしこれも、ゲーム的なセンスと
考えれば納得のいく話です(ほら、ロールプレイングゲームって街歩いてる時とかもずっとBGM流れて
たりするじゃないですか)。ちなみに本作の音楽を担当したディザスターピースは、長年ゲームミュージック
を作曲していた人で、映画音楽は今回が初めてだそうです。
 
 というわけで、80年代ホラーの様式を受け継ぎつつも、ゲーム世代ならではの感覚もミックスされた
オリジナリティー溢れる世界観に僕はすっかりやられてしまいました。

 その上で、ストーリーというか、青春映画としての側面も実に素晴らしかったです。

 映画の中盤、ジェイに「それ」を移して助かったはずのヒューに会いに行くと、彼は目の下にクマを作り、
普通の通行人を「それ」だと疑い、精神を病んでるようでした。つまり、ただ「それ」を移すだけのゆきずりの
セックスは正解ではなかった。
 そして映画終盤、ジェイは、彼女のことをずっと好きだった幼なじみのポールと結ばれます。しかしポール
は「それ」をまた他の女性に移そうとはせず、ジェイもそれを良しとしたのか、後ろに近づいてくる「それ」を
引き連れながら2人で手をとり、歩いて行くカットで映画は終わりました。
 果たしてこの先2人は、被害を広めず食い止めるために心中するのか、「それ」から逃げながら2人で
なんとか生きていこうとするのか…僕は後者だと思いました。

 僕はこの映画のデトロイトの寂れた街の撮り方を観てトーマス・アルフレッドソン監督のヴァンパイア
映画「ぼくのエリ 200歳の少女」を思い出したのですが、プールでのスペクタルシーンや、2人が手を
取り前に進もうとするラストシーンにも共通点を感じました。

 本作の公開後、アメリカではセックスをすると移るという「それ」は性病のメタファーなんじゃないかと
いう議論が巻き起こり(まぁ、気持ちは分かる)、その説は監督が否定したそうです。

 ここからは僕の解釈ですが、「それ」はゆっくりと近づいてきて、決して逃れる事が出来ないという事から
そのものズバリ「死」だと思いました。それから逃れるためにセックスをしなければならないというのは、
子供を作ることによって「自分の命を受け継がせる」ことが「死」を回避するということになるんじゃないかと。
 そして、セックスした相手が死ぬと「それ」が自分に戻ってくるというルールが意味する事は、「子供を
作ったらちゃんと育てなさい!」ということ。
 そう、本作は『正しいセックスと子育て指南映画』だったのです。もし子供がゆきずりのセックスとかしようと
したら、ジェイの父親の姿をした霊がプールでしたように家電を投げつけて叱ろう!(ええー)

イット・フォローズ(ネタバレアリ)_d0198868_822339.jpg
by koshibaken | 2016-01-29 08:08 | 映画


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